トレーニング
いつもお世話になっております
フィットネスエイムの鵜飼です。
しばらくの間、ブログの更新が滞ってしまいました・・・
久しぶりに何か書こうと思い立ったとき、ふと「そういえば、自分がコンテストに出場したときのことをまだ書いていなかったな」と思い出しました。
せっかくですので、今回はただ耳障りのいい言葉を並べるのではなく
自分自身が実際に体験した“コンテストのリアル”を、包み隠さず正直に書いていこうと思います。
※あらかじめお伝えしておきますが、
僕はコンテストに出場されるすべての選手の方々に、心からの敬意とリスペクトを持っています。
その前提のうえで、以下の内容をお読みいただければ幸いです。
それでは、どうぞよろしくお願いいたします。
時はさかのぼり、2020年。
僕は自動車整備士の仕事を辞め、新たにパーソナルトレーナーとしての道を歩み始めました。
その節目にあたって、何か一つ自分自身にしっかりとケジメをつけたい。
そんな思いから、2021年6月、愛知県で開催されたAPFという団体が主催するボディコンテストへの出場を決意しました。
出場クラスは、今でも人気の高い「フィジーククラス」
“サーフパンツが似合う身体”を競うカテゴリとはいえ、当時から出場者のレベルは非常に高く
中にはボディビルクラス並みの筋肉量を誇る選手も数多くいたほどです。
そんな中で戦うにあたり、筋肉量で勝負を挑んでも間に合わないと判断した僕は
「出場するからには、あくまでも優勝を目指す」という気持ちのもと
“可能な限り体脂肪を削ぎ落とし、絞りの鋭さで勝負する”という戦略を選びました。
そして完成したのが以下の体でした
体脂肪率は、体組成計の数値でおよそ2.8%まで落ちたと記憶しています。
この数値は「生命を長く維持することが出来ない数値」です
さらに“水抜き”も行っていたため、体内の浮腫みもなく、皮膚が筋肉にぴったりと張り付いた状態でした。
ちなみに、上記に掲載した写真ですが
上の3枚が大会前日、下の2枚が大会当日のものです。
見た目には大きな違いがあるように感じられるかもしれませんが、実はこれ、たった2日間の写真なんです。
では、一体なぜそれほどまでの変化が起きたのか?
そして、自分の身体や精神はどのような状態になっていたのか?
ここからは、その内側の変化について詳しく書いていきたいと思います。
これはあくまで個人差があることなので一概には言えませんが
体脂肪率が7%付近を下回ってきた頃から「本当の減量」が始まったと感じました。
それまではまだ「辛い」「苦しい」と思える“余裕”があったように思います
しかし、その先には、自分の意志や根性ではどうにもならない領域が待っていました。
実際に僕の身に起こったことを挙げてみます。
・エネルギー不足が深刻で、1メートルも離れていない人と普通に会話するだけで息が上がる
・睡眠は極端に浅くなり、大会の1か月前頃からは、よく寝れて15分おきに目が覚める状態が続く
・朝起きて立ち上がると、目の前が真っ暗になるほどの立ちくらみ。すぐには動けず、休んでからでないと洗面所にもたどり着けなかった
・車の運転中に自分の身体が揺れる感覚があり、最初は車のエンジンの不調かと思ったが、原因は自分の不整脈だった
・精神的にも限界で、三大欲求は全て消え去り「無」の状態に、その上で更に「もしこのまま命を落とすなら、それまでの人間だったということか」と
どこか達観したような、諦めに近い感情が湧いた
・その様な状況で、代謝を一時的に戻す為の所謂チートミールを食べた際に、美味しいではなく「これで命をまだ繋ぎ止める事ができる、まだ生き続ける事ができる、助かった」と言う本能からの安堵で涙が出た事もあった
ざっと、このような状態でした。
今こうして振り返っても、正直なところ、なぜあの状況をやり切れたのか自分でもよく分かりません。
大会後、ある方に写真を見せたところ、こんな言葉をかけられました。
「これは例えるなら修行僧の域。
君は普段は温厚でおとなしいけれど、スイッチが入ると“自分を壊してでもやり遂げる”ストイックさを発揮する。
そうなると周りの誰にも止められないから、もしまた大会に出場するなら
あらかじめ決めた人に、決めた時間に連絡するルールを作って
万一その連絡がなければ、すぐ救急車を呼んでもらうようにしておきなさい」
ある意味、褒め言葉だったのかもしれません
きっとそのとき、自分の中のその“スイッチ”が入っていたんでしょうね。
いよいよ大会当日。
“仕上がった身体”を携えて、会場へと向かいます。
とはいえ、到着したからといってすぐにステージに上がるわけではありません。
ステージ上でのほんの数分の輝きのために、裏では緻密な調整が行われています。
僕の場合、まず気をつけたのは体の浮腫みを防ぐこと。
そのために水分は極力摂らず、代わりに蜂蜜を少量口に含むことでエネルギーを補給
さらにポテトチップスを数枚食べて、塩分と糖質と脂質で一時的に筋肉を張らせる工夫もしました。
その後、栄養を与えた状態で筋肉をパンプアップさせるため、舞台袖ではゴムチューブを使ってハードなウォームアップを行います。
ただ、この時点ですでに体はボロボロ
筋肉も神経も限界に近く、意識が飛びそうになることもあります。
それでも「ここで全てを出し切る」ために、なんとか踏ん張ってステージへと向かいます。
そして本番。
写真で見ると、ただポーズを取って立っているだけのように見えるかもしれませんが、実は全く違います。
ポージングの際は
息を吐ききった状態で止める
その上で腹筋を折りたたむように収縮させる
同時に肩と背中は横に広げるように力を入れて“ワイド感”を演出する
更に胸は潰れないよう、あえて力を抜く
といった具合に、一瞬ごとに極めて繊細な筋肉のコントロールが求められます。
もちろん、これを一朝一夕で習得することはできません。
僕は大会の約2か月前から、どれだけ体がきつくても毎日欠かさずポージング練習を続けていました
ステージの裏側には、見えない努力と細部へのこだわりが詰まっているのです。
そして結果は、5位入賞でした。
その瞬間はただひたすらに「やり切った」「ようやく終わった」という安堵の気持ちが大きく
順位よりも、無事に舞台に立ち切れたことへの達成感で胸がいっぱいでした。
とはいえ、初出場で入賞し、表彰を受けられたことは本当に光栄で、今でも大切な思い出です。
ですが、僕がこの挑戦を通して本当に得たものは、順位ではありません。
大会に向けて極限まで絞り切った状態でトレーニングを行っていたとき
ある“感覚”が自分の中に生まれたのです。
それは
「体の細部まで、自分の状態が手に取るように分かる」という感覚でした。
おそらく、体脂肪がほとんどない状態、つまり筋肉の動きを妨げるものが一切ない状態でトレーニングを行ったことで
各部位の筋肉がどう動いているのか、どこに効いているのかを
まるで直に触れているように感じ取ることができたのだと思います。
この感覚は、今でもパーソナルトレーナーとしての自分の強みとなっています。
実際にお客様から
「トレーニング中、自分で“今のは良かった”と感じたとき
鵜飼さんにも同じタイミングで“今のは良いですね”って言われる時がありますけど
どうして目で見ただけで分かるんですか?」
といった嬉しいお言葉をいただくことがあります。
これは、まさにあのときの“研ぎ澄まされた感覚”が記憶として残っており
目の前のお客様の動きに、自然とシンクロしている事があるからなのだと思っています。
気づけば、あの大会からもう数年が経ちました。
ですが、あの経験は今もなお僕の日々の仕事の中で確かに生きており
目に見えないかたちで、毎日の自分を支えてくれています。
「またいつか大会に出るんですか?」と聞かれることもありますが
正直に申し上げて、今のところ再挑戦の予定はありません。
ここまで読んでいただいた方にはお分かりいただけるかと思いますが
あのステージに立つためには、日常にある当たり前の楽しみ
食事、交流、趣味、心の余裕
そうしたすべてを、長期間にわたって手放す覚悟が必要です。
そしてもし、もう一度出場するのであれば
僕はまた命をかけて、行けるところまで行ってみたいです、そうしてたどり着いた所にしかないもの
命の灯火が消え掛かっている状況でしか実感できない、強烈な生の感覚が確かにあるんです。
だからこそ、今の自分にはその決意をする“勇気”が、まだありません。
それほどまでに、僕にとってボディコンテストという舞台は、人生をかけるに値する深い経験でした。
……ということで、今回のブログはこのあたりで締めくくろうと思います。
最後にひとつだけ。
この記事を読んでくださった皆様が、今後ボディビルダーやフィジーク選手の方々を見るとき
その裏にある努力と覚悟に、少しでも敬意を抱いていただけたら嬉しく思います。
最後まで読んでいただき、ありがとうございました。
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